地域アートとヴィンテージ化する地方都市

On 2015/06/19 by Hidenori Kasagi

【この記事は8年以上前のものです。情報が古い場合があります。】

小豆島本

bookandbeer.com/blog/event/20140615_shodoshima/

地方都市とアートについて考える機会があり、ちょうど1年前に下北沢の書店、B&Bで行われたイベントの際に依頼された書評を転載します。

2013年に行われた瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、様々なアーティストやデザイナーが滞在してプロジェクトが行われている小豆島。その構想から実践、検証、長期的なビジョンを記録した、『小豆島にみる日本の未来のつくり方』への書評になっています。初歩的な文字直しと注釈の追加をしています。

昨年の秋に話題になった藤田直哉「前衛のゾンビたち――地域アートの諸問題」で問題提起された地域アートプロジェクトに対するモヤモヤ。藤田さんのテキストほど明快ではないですが、それに先駆けて地域アートのあり方に対して見解を述べています。またヴィンテージ地方都市の概念にも後半で言及しています。当時、地域や地方都市に対して感じていたことを元に書いたので、厳密には書評になっていないかもしれません(笑。

「小豆島にみる日本の未来のつくり方」書評

飯田さん*1が港で看板を塗り直していると、通りがかりの人が口を挟んでくる、この一節が印象的だ。小豆島に行ったことはないけれど、昔どこかで見たことがあるような風景とつながった。

小さい頃の記憶にある街の中では、モノがもっと作られていた。工事現場や作業場、魚屋なんかも含めた現場が通りに見えていて、モノが試行錯誤されて作られていく過程が街の中にあふれていた。そして様々な試行錯誤が家や風景に定着されていたのだ。

効率やリスク回避のために作られた建材や工法は、そんな試行錯誤を見えにくくしてしまった。衣食住が「営み」から産業や消費になり尽くしたからではないだろうか。

だけど、アートは絶対に効率化や産業化できないことを、現代でも多く含んでいる。そもそもアートは社会の外から何かを見つける役割を担っている。だからアートはたまに社会からはみ出しているようにも見えたりする。社会のエッジにあるからこそ、アートはイノベーションを生み出すきっかけになっているのだと思う。

しかし近年の地域アートプロジェクトを傍から見ていて、なぜアートでなければいけないのか、釈然としていなかった。アートがおとなしく社会化されているからだろうか?社会に利用されているように見えるからだろうか?*2

そんな疑問を拭い去るヒントがこの本の、あの看板を塗り直すプロセスに垣間見えたのだ。作る人が、通りかかる人も巻き込んで試行錯誤を繰り返す、そのプロセスが街を面白くしていく。アーティストが地域で活動する効能が少し見えてきた。

地域アートプロジェクトがスペクタクル志向から日常志向に変わったとも言えるだろう*3。祭りから営みへ。それでもアートが持つ社会のエッジを探索する力は弱まらない。

街の良い状態はソフトとハード、プロセスと結果、関係と場所がいつもセットになっている。僕らが空間を設計する際に、いつも理想となる場所と関係性のモデルがある。放課後に友達の家に上がり込んで、会話もかわさず二人で漫画を読みふけって、夕方になったら「じゃあね」って帰ってく。そんな友情と居場所。そのことを、以下の一節を読んで思い出した。

飯田くんは絶妙の芸を持っていて、一見何もしていないようで、何らかの影響を周りに与えていたり、新たな価値や気づきを生み出したりしている。(P204)

アーティストが地域で活動することは短期的、直接的に成果を生み出さないかもしれない。それでいいのだと思う。この本はそんな人々の関係や場所が、うまく小豆島に作られていることを伝えてくれている。

日本のあちこちを見ていると、駅から遠く、ロードサイドからも遠い街の底力が増してきたように思える*4。一見街は衰退しいてるけれど、そこにいる人達の表情は幸せそうだ。共通するのは、近代のインフラが避けて通った古い街であること。川や緩やかなカーブを描く旧道がある。人工的な開発では作りえない、人間の人生のスケールを超えた自然が必ずある。場所に備わっている、人間が集まる魅力が残っている。

小豆島も島という交通デバイドによって様々なことが残っているはずだ。試行錯誤の風景もたくさん残っていることが想像できる。フェリーが一時期なかったことはラッキーだったのかしれない。

今、そんな街はビンテージ化する一歩手前のジーンズみたいな状態じゃないだろうか。タンスに眠っていて母親に捨てられる寸前の魅力的なジーンズ。だからといってジーンズを額に入れるんじゃない、履きながら使っていく時が来た。適度なスピードの人の営みがあれば、街は擦り切れることはない。

そんな、持続する緩やかな空気と人々の関係性*5を、この島に確かめに行きたくなる一冊だ。

*1 アーティストインレジデンスで滞在していたグラフィックデザイナーの飯田将平さんのこと。
*2 よく見かけるのが「社会からはみ出してる風」の作風。前衛のゾンビと言われる所以だと思う。”感性””若者”のような社会的役割を演じてしまっている。
*3 地域アートの「地味さ」に関してはこちらにも書いています。 http://10plus1.jp/monthly/2014/01/enq-2014.php#16749
*4 アーツ前橋のある前橋市街、うちの事務所がある井の頭なんかはまさにそう。
*5 この当時N・ブリオー『関係性の美学』のことは知らなかった。。

椿昇×原田祐馬×多田智美「小豆島にみる日本の未来のつくり方 東京場所」
『小豆島にみる日本の未来のつくり方』(誠文堂新光社)刊行記念
2014/06/15 B&B

http://bookandbeer.com/blog/event/20140615_shodoshima/

ほかの書評執筆者

水野大二郎(デザインリサーチャー)
松倉早星(Ovaqe)
西村佳哲(リビングワールド代表)
岸井大輔(劇作家)
兼松佳宏(greenz.jp編集長)

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